武道・格闘技をやっていて、たまに面白い話や良い話を聞けたりします。
また武道や格闘技をやっていたからこそ起こり得る体験なんてのも世の中にはあるのです。
空手や格闘技に関する私が過去に聞いたり・経験・体験した
「ちょっといい話」
を書いてみたいと思います。
1.元プロのキックボクサー
私が最初に通ったキックボクシングジムでの話。
ガチンコのジムで、実戦型の指導方法のジムでした。
毎回毎回追い込み方が半端じゃなくて、楽しいというよりは、結構辛いという思い出しか残っていません。
昔ながらのジムであしたのジョーのジムをちょっと良くしたくらいの感じです。笑
ただ練習がきつい分、相当強い人たちがたくさんいました。
そしてこのジムに所属している会員さんたちは、皆さんずーっとキックボクシングをやっている人たちでした。
そんな中、50歳くらいのおじさんで、色々と面倒を見てくれるAさんという人がいました。
見た目とてもスポーツマンには見えない、どこにでもいそうな普通のおじさんでした。
後でわかったのですが、その人は元プロボクサー。
プロの戦績はあまり良くなかったそうです。
2勝7敗とかそんな感じ。
ジムにいる人の中では多分一番上の年齢で、会長に普通に文句を言える唯一の人でした。
元プロボクサーでしたが、蹴りも相当に強くキックボクシング歴も20年近い大ベテランでした。
2.おやじキックボクサーの大会
そのジムは実戦派を謳っているだけあって、やたらと試合をする事を勧めていました。
私も入会して直ぐに、2年後に試合に出ましょう!と言われたものです。
入会して1ヶ月位の時に、Aさんの試合の話が出てきました。
とある有名な大会で、所謂「大人限定の大会」でした。
その試合は、中年のキックボクサーたちが集まり試合をする大会で、入場曲やマイクパフォーマンスなど、プロのような演出がある大会でした。
そしてチケットを購入して、見に行くというアマチュアとはいえ、レベルの高い人はかなり高い大会でした。
「世の中こんな大会があるんだなぁ」と、その時初めて知りました。
ちなみにAさんの入場テーマは曲は「ドラえもん」でした。笑
3.試合と結果
私は見に行った訳ではないのですが、動画を見せてもらいました。
Aさんの試合は、思いのほかあっさりと終わっていました。
開始一分くらいに、突然出したハイキックが当たり相手選手が倒れ、そのまま試合終了。
見事にAさんは勝利を収めました。
Aさんは勝利者インタビューで、
「A子!!元気にしてるかー!!パパ勝ったぞ!!」と絶叫していました。
リングを降りて引き上げる姿は、単純にかっこよかったです。
こんな人と一緒に練習しているのか?と思うと試合と全く関係のない私もちょっと誇らしく思う訳です。
4.娘の話
その後ジムでAさんは相変わらずでした。
ニコニコしながら私や若手の初心者に、コツとかを教えてくれる気のいいおじさんでした。
そんな時に、ふと娘の話になりました。
私の娘は当時小学2年生か3年生でした。
Aさん「僕んとこも女の子なんだよね。」
私「ああ!試合の時に名前呼ばれてましたよね。」
Aさん「そうそう!!約束なんだよ。絶対勝つ!!ってね。」
私「そうなんですか。おいくつなんですか?娘さん?」
そう聞くとAさんは、うーん、、と考えて
Aさん「もうよく分かんないよ。」と言って笑った。
離れて暮らしているのかな?と私は思った。
5.Aさんに叱られる
ジムにいるとき、Aさんは終始にこやかで、追い込みのミットを打っているときでさえ、笑顔でミット打ちをするというとんでもない50歳でした。
会長とスパーリングをすると、両方とも元プロということもあり、見ているこっちがビビるくらいバチバチにやっていました。
50歳同士のスパーリングで、ガチ過ぎて、レベルが高すぎてビビります。
ある日、Aさんと会話している時にふと注意されたことがあります。
私「娘は人見知りで、ダメダメなんですよね。スポーツも勉強もイマイチで、、。」
と娘の話をしていた時です。
Aさん「それは違うよ。父親であるカラウサさんが、ダメダメなんて言っちゃダメだ。」
いつも通りのやんわりとした話し方なのに、顔が真剣でちょっとビビりました。
Aさん「だって、ちゃんと学校行ってんでしょ?ちゃんと「ただいま・お帰り」って言ってくれるんでしょ?」
私「ええ、、まぁ。」
Aさん「だったらいいじゃない!そのうち相手にされなくなるんだから!!」
と言って笑った。
いつものAさんだった。
6.Aさんの過去
Aさんの娘さんについて、別に気になっていた訳じゃないし、特に詮索することもしなかったのです。
私は職場の移動で、新宿のオフィスに移ることに。
そのジムにはどう考えても通えなくなり、結局やめることにしたのです。
会長「引越しするの?」
私「いや、子供も小さいし引越しはしません。でも片道2時間かかるんですよね。」
会長「単身赴任の方が気楽じゃない?」
と会長と話をしているとき、ふとAさんがやってきた。
Aさん「子供がいるんだから、そりゃー一緒んほうがいいよ。」
私「Aさんって確か娘さんがいるんですよね。」
Aさん「うーん、、いるっていうか、、昔ね。」
私は聞いちゃいけない事を聞いたのかと思った。
でもAさんはまるで他人事のようにいつもどおりににこやかに話し始めた。
Aさんは元プロボクサーという事は知っていたけど、2勝7敗とか聞いていたけど、それも若干違うらしい。
プロでは2戦して2敗。
それで一度引退したらしい。
でもその時はまだ24、5歳とかで全然まだまだやれる年齢だったそうだ。
ボクシングをやめてからは、結構荒れた生活だったらしい。
当時のAさんは、家庭があまり上手くいっておらず、まだ小さい娘を連れて奥さんは出て行ったらしい。
奥さんに全く未練はなく自由になれる!!と思ったらしい。
当時まだ遊びたい盛りのAさんはちょうど良い位に思ったらしい。
7.娘との約束
奥さんと娘が出て行く日。
Aさんは結構ウキウキの気分だったらしい。
このあと早速遊びに行けると思っていたそうだ。
奥さんと娘が出て行く時に、最後に娘と話をしたそうだ。
まだ幼稚園児の娘さんが持っていたドラミちゃんの鞄から手紙とリボンのついた箱をくれたそうだ。
娘「後で読んでね!!」
娘はそう言って手を振った。
Aさんは、ぼーっとしながら娘の頭を撫でて
Aさん「ママの言うことをちゃんと聞くんだよ。」
と言ったのだけは覚えているらしい。
娘さんからもらった手紙と箱はそのままほったらかして数ヶ月が過ぎた。
そしてある日、ふと手紙を見た。
手紙には一言だけ「がんばって!」とひらがなで書かれており、
その下にはドラえもんとAさんがボクシングの試合をしている絵が書いてあったそうだ。
ドラえもんの手と自分のグローブは同じ形だった。
よく16オンスのグローブを
「ドラえもんの手」
と言っていたのを娘は覚えていたのだろう。
小さい箱には、娘が宝物と言っていた。
今で言うところのマクドナルドのハッピーセットのオマケが入っていたそうだ。
ふと見ると、子供が寝ていた布団とか
おままごとで遊んでた姿とか
寝ている姿とかを思い出して
Aさんはそれを見て泣き崩れたそうだ。
まるで他人事のように話していたAさんだが、その時だけは
「さみしいもんだよ。」
と寂しげに言っていた。
8.試合に出る理由
Aさんはどうしても娘に会いたいと、奥さんの実家近くに行ってみたそうだ。
でも、自分のせいで出ていった奥さんと娘に合わせる顔もなく会えなかったそうだ。
当時まともに働いていなかったAさんは、養育費とか一切払っておらず、後日就職して養育費を払おうとしたが、断られたそうだ。
ある日、ふと娘の「がんばって」という、言葉とドラえもんのボクシングの絵が頭に浮かんだ。
そして娘のためにリングに立つ覚悟を決めて、プロの試合にカムバックしたらしい。
プロで勝ち続けたら、娘が気がついてくれると本気で信じていたようだ。
そうして復帰した結果が2勝7敗という成績だったらしい。
ボクシングを引退してからはキックボクシングを始めて、今でもアマチュアの試合に出ている。
いつか娘が自分を見つけてくれると未だに信じている。
だから今でもリングに立つのだと。
もう娘さんとは30年近く会っていないと言っていた。
最後までまるで他人事のように話をしていた。
9.こんな人間もいる
こんなことを書いておきながら、申し訳ないのですが、その後について私は知りません。
というか、Aさんは恐らく会えていないと思います。
話だけ聞くと絵に書いたようなダメ人間と思うと思いますが、実際に会ってみるとそんな風には思いません。
失ったものの大きさを感じながら、50歳になった今も独身、遊びもしない、ギャンブルもしない、酒も飲まない、楽しみといえばジム通いだけと思うとちょっと切ないなと思います。
確かに私から見ても、自業自得で同情の余地なしという思いもあります。
でも、娘さんに会いたいという思いだけで、今でもキックの試合をするって、ひょっとしたら言い訳なのかもしれませんが、すごいなと思います。
ヘッドギアなしで、ガチンコの殴り合いは、半端な覚悟ではできません。
入場曲をドラえもんにしてるのも娘さんが大好きだったからだそうです。
なんだか切ないですね、、。
いつか赦してもらえたらいいですね。
と他人の私が言う話ではないですが、
いつかどこかで娘さんと再開してほしいなと私は思います。
世の中には不器用で格闘技でしか、上手く生きられない、表現できない人っているんだなと思った話でした。
でもAさんは格闘技がなかったらどんな人生だったのだろう?
なんてちょっと思っちゃいます。
別にいい話ってわけでもないですね、、、汗
コメント
いー話でした(T.T)ちょっとうるっときました☺????☺