【いい話】とあるボクサーと犬のロッキーの話

武道・格闘技をやっていて、たまに面白い話や良い話を聞けたりします。

空手や格闘技に関する私が過去に聞いたり・経験・体験した

「ちょっといい話」シリーズです。

 

1.プロボクサーの剛さん

剛さんは元プロボクサーの日本ランク上位に上り詰めた人です。

年齢は私より少し上、当時はボクシングの世界ではちょっと有名な選手だったそうです。

もうとっくに引退して、今はサラリーマンをやりながら趣味でキックボクシングのジムに来ている人です。普段は顔も普通で誰にでも優しくて気さくな人ですが、体つきがやはり元プロボクサーと思えるくらいに絞れていて、体を見るといかにも強そうな人です。

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そんな剛さんから聞いた、犬との思い出話です。

2.犬のロッキー

当時中学生だった剛さんは所謂不良で、学校にあまり行かなかったり、街で喧嘩をして警察に保護されたりと、あまり良い中学時代では無かったようです。

そんなある日、家に帰るといきなり一匹の子犬が居たそうです。

全く知らなかった剛さんは、驚いて親に聞くと好き勝手に振る舞う剛さんのカウンセリングの一環で「犬を飼う」というのがあったそうで、それを試したらしいです。

子犬は保健所から引き取ってきたそうで、両親は藁にもすがる思いだったようです。

子犬は可愛いのもあったのでしょうが、好き勝手に動き回る子犬の世話を焼いているうちに、剛さんの性格も穏やかになって行ったそうです。

名前は剛さん映画のロッキーから取って「ロッキー」としたそうです。

ロッキーが家に来てから、学校に通い、喧嘩で両親が呼び出される回数は激減し、剛さんは犬の世話のために夕方には帰宅して散歩に行っていたので、喧嘩する時間も無かったと本人は笑いながら言っていました。

ボクシングと出会ったのもこの頃で、ロッキーの散歩で毎日1時間くらい歩いてるときに、ボクシングジムを見かけて、毎日散歩しているうちに、覗くようになり。

会長に声を掛けられてジムに通い始めたそうです。

ボクシングジムにはいつもロッキーと走ってでかけていたそうです。

ロッキーは外で大人しく待っていて、毎日2時間の練習中通行人やジムの会員達に可愛がってもらっていたそうです。

ロッキーは殆ど吠えることが無くて、剛さんがジムから出てきて

「ロッキー帰るぞ!」

というと、ワンと一回だけ吠えたそうです。

ジムへは剛さんとロッキーは走って通っていたそうで、ロードワークの代わりに走っていたので、ロッキーはジムに来るといつもクタクタだったと剛さんは笑っていました。

3.プロボクサーの剛さん

剛さんは元々喧嘩が強かったのですが、プロとしてもかなり強かったそうです。

ジムに通って2年経たないうちにプロテストに合格、数カ月後にデビューして破竹の7連勝!

高校を卒業して、ボクシングをメインに生活を始めてからは、チャンピオンを目指せる逸材と言われるようになったそうです。

剛さんはほぼ毎日ロッキーと一緒にジムに通って練習していたそうです。

ロッキーもいつもジムに行くことを楽しみにしているようで、剛さんがジムの用意をしていると、ソワソワしだして主人の出発を心待ちにしているようだったそうです。

剛さんもロッキーと一緒に駆け出すと不思議と走るのが楽しくて全く苦じゃなかったそうです。

ですが、快進撃もある日突然止まります。

8戦目の試合で、格下の選手相手に不用意に貰ったパンチでダウンしてしまい。後半の反撃虚しく初の敗戦となってしまったそうです。

これまでの輝かしい実績からは考えられない敗戦だと言っていました。

一度負けてしまうと、今度は一気に自信がなくなり思うようにボクシングができなくなってしまった剛さんは、情熱も一緒に失いかけて居たそうです。

ジムの会長はじめ多くの人が、駄目になってしまう典型的なパターンだと思ったそうです。

それでもロッキーが、いつものようにジムに行くのを楽しみにソワソワしているのを見て、剛さんも苦笑いでジムに通い続けたそうです。

4.ロッキーの異変

ロッキーは貰ってきた時に、風邪を引いたりとかはあったそうですが、殆ど元気に毎日剛さんと一緒に暮らしていたそうです。

殆ど吠えることもなく、近所では犬を飼っていること自体知らないなんて家もあったそうです。

当時の剛さんはキャリア11勝1敗だったそうです。

あるトーナメント戦に出場して、勝てばいよいよタイトルマッチも見えてくる大事な試合が控えていたある日のこと。

いつものようにジムに向かって走っていくと、ロッキーがいつものように付いてきません。

剛「おいおい、ロッキーどうした?」

ロッキーに声を掛けておかしいな?とその時は思ったそうです。

でも、普通に尻尾を振って付いてくるロッキーの姿は普段と変わらないように見えたそうです。

大事な試合を控えて、いつものようにジムに通う剛さんとロッキーでしたが、ロッキーの様子がおかしいのは、何となく剛さんも分かっていたそうです。

でも、試合のこと、減量のことで頭が一杯で、ロッキーのことをしっかり見てあげられなかったそうです。

5.トーナメント戦と動物病院

トーナメント戦が始まったのは、その数週間後、剛さんは順調に勝ち続けて決勝まで駒を進めたそうです。

イケイケ状態の剛さんは自分は世界チャンピオンになると信じて疑わなかったそうです。

ある日、ジムからの帰り道いつものようにロッキーと一緒に走っていたときのこと。

ふとロッキーの息遣いが荒く、ゼェゼェと息をしていたそうです。

剛「おい!ロッキー!どうした?大丈夫か?」

ロッキーは主人の問いかけに尻尾を振って、答えますが、いつもの元気さはありません。

これはおかしい!と剛さんはすぐに動物病人に駆け込んだそうです。

診断結果は、末期のガンだったそうです。

剛さんはまだロッキーは6、7才とかでまだ「全然寿命じゃないでしょ!」と医者に喰ってかかかったそうです。

でも、剛さんは分かっていたのです。

もっと早くに医者に見せていたら、きっとここまで悪化させなかったのじゃないか。

自分が試合のせいで、ロッキーの事を後回しにしたんじゃないのか!

剛さんは自分を責めることしかできなかったそうです。

病院からの帰り道、桜の花が散る少し暖かい春の日に、ロッキーを抱きしめて泣いたそうです。

剛「ゴメンな!ゴメンな!ロッキー!ほんとにごめんな!」

泣きながら抱きしめる主人を不思議そうに見ながら、ロッキーはいつものように尻尾を振って剛さんの顔をペロペロと舐めてくれたそうです。

ロッキーの頭に、桜の花がチラチラと舞ってきて、ロッキーはそれを見て大喜びで駆け回ったそうです。

6.ボクシングへの情熱

トーナメントの決勝を10日後に控えた日、剛さんはジムの会長に試合の辞退を申し入れたそうです。

当然周りは大反対。それこそジムにいる全員が剛さんに考え直すように説得してくれたそうです。

でも、その時の剛さんの精神状態はボロボロで、日に日に衰えるロッキーの横にいつもいたそうです。

ロッキーはもうすっかりやせ細ってしまって、当時の精悍な姿とはだいぶ違っていました。

食べ物もあまり食べなくなり、大好きだったボールやおもちゃにも興味を持たなくなってしまいました。

ロッキーはお気に入りの自分のソファーから殆動くことが無くなり、じっとしていることが多くなりました。

そんなある日、フラフラと立ち上がると、剛さんの前に来て尻尾を振ります。

しばらくすると座り込み、またしばらくすると剛さんの前に来て尻尾を振ります。

はじめは何のことか分からなかった剛さんでしたが、気が付きました。

いつもジムに通う時間だったのです。

剛「ロッキー、、、お前、ジムに行きたいのか?」

つい先日までは、勢いよく駆け出して玄関に向かって走っていったロッキーは、フラフラと玄関に向かい、ちゃんと主人が付いてくるのかを振り返りながら玄関脇まで来て座り込みました。まるで催促しているようでした。

剛さんは、涙をボロボロ流しながら、犬用の毛布にロッキーを包んで、ジムに向かいました。

7.トーナメント決勝とロッキー

ジムに着いたロッキーは、普段から使っていたジムの外のロッキー用のケージ前にフラフラと歩くと座り込みました。

すっかりやせ細ったロッキーを見ると皆、優しく撫でてくれました。

ロッキーは薄っすらと目を開けて、何か言いたげに尻尾を振ります。

剛さんはそれを見て、試合をすることを決意したそうです。

ボクシングのせいで、ロッキーを見殺しにしてしまったという思いでボクシングをやめようとしていた剛さんは、ロッキーの姿を見て、そんなの関係なくボクシングをしている剛さんがロッキーは大好きだったんだと思ったからだそうです。

剛「お前のご主人さまは、日本一強い男だ!」

ロッキーにそう誓って試合に臨むことにしたそうです。

後楽園ホールで行われたトーナメントの決勝は、判定の末に剛さんの勝利!

いよいよタイトルマッチも現実味を帯びてきた。そんな勝利だったそうです。

この勢いのまま、剛さんは日本チャンピオン、世界チャンピオンになっていくと周りは本気で思っていたくらいに、神がかった強さだったそうです。

8.その後のお話

試合から数日後、その日はロッキーが何故かしっかりと尻尾を振って剛さんの前に来たそうです。

ロッキーを毛布にくるんで、ゆっくりとジムに向かったそうです。

一応試合の後、1週間は練習禁止だったので、特に練習するつもりはなかったそうですが、何となく今日ジムに行こうと思ったそうです。

ロッキーも今日は比較的、調子が良さそうで 剛さんの胸に顔を埋めて眠っているようでした。

ジムについて、剛さんとロッキーを見かけた会員や練習生が集まってきます。

普段殆吠えることのないロッキーは皆に向かって「ワン!」と大きく吠えました。

その場にいる全員が、思ったそうです。

ロッキーが「別れの挨拶」をしたんだと。

ジュニア時代からロッキーと遊んでいた子供たちは、もう高校生になっていて、ボロボロと涙を流しながらロッキーを優しく撫でてくれます。

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皆、涙ながらにロッキーを優しく撫でてくれます。

ロッキーは大好きなジムに最後に来て喜んでいたと剛さんは言っていました。

その2日後にロッキーは亡くなったそうです。

まだまだ10歳にも満たない中型犬にしては、早い死でした。

ロッキーが居なくなってから、数日後、剛さんは夢を見たそうです。

ロッキーと一緒にジムまでのランニングをして、野原に来るとロッキーが大好きなボールを1回だけ投げてあげる!

ロッキーはそれを猛ダッシュで拾ってくると、誇らしげに剛さんに見せたそうです。

剛「ありがとな!ロッキー!!ゴメンな!ロッキー!」

夢の中で剛さんは泣きながらロッキーを抱きしめて、ロッキーは力強く尻尾を振って剛さんの顔をなめてくれたそうです。

 

その後、剛さんは次の試合で敗戦。

そして引退しました。

通算成績は20戦18勝2敗(8KO)だったそうです。

剛さんは後悔も何もなくて、

「どうしょうもない人間だった俺が、ロッキーのお陰でまともに成れて、夢を見せてもらったから。もう十分だったんだよ」

と当時もそう思っていたそうです。

今は動物関係の会社のサラリーマンとして、幸せそうに暮らしています。

きっとロッキーも幸せだったんだろうなと思います。

 

私も犬を飼っているので、この話を聞いたときはちょっと切ない気持ちになります。

※諸々の事情で私が少々脚色してますので、ご理解くださいませ!

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